『ノルウェイの森』前と後

 秋風が一段と冷たさを増してきた今日この頃、みなさん元気にお過ごしでしょうか? 柚木の心には一足お先に木枯らしが激しく吹き荒れております、ぶるぶる。ジュネーブに旅立った友達に続いて、わたしの貴重なもうひとりの平日遊び友達も日本脱出決定です、しくしく。「勉強不足だね」と言われつつ畑違いの大学院(日本のです)に合格した彼女は、あまり行く気もなかったらしく微妙な様子でドイツ行きを決めました。大学院は一応キープしつつ、「日本にいたくないもん」と片道切符で旅立ちます。冬はジュネーブの友達と落ち合って、モンブランでスキーだそうです。自由気ままです、全く。
 さらに今年の春にバイク事故で九死に一生を得た会社勤めの弟は、生命の尊さに今更ながら目覚めたらしく、医学部目指して来年のセンター試験を受ける決意です。「だから初めから医学部いっとけと言ったのにな」と父は言ってましたが、子蠅一匹殺せなかった男も、変われば変わるものです。今から医学部受験なんて頭が痛くて割れるのでわたしには到底無理な話ですが、弟は自称IQ200の天才(幼稚園での知能検査で小学六年生相当と判断され、年齢差で計算するとIQ200となるらしい。幼い頃ほど高く出る傾向にあるそうで、彼はもう一生知能検査はしない! と言っている)なので何とかなるのかもね。もうみんな一度きりの人生なのだから、好き勝手に生きればいいのだと思います。
 人生色々、ケセラ・セラ……。柚木はひとり、京都の片隅でくすぶってるわけですが。

 一通り自分の孤独と停滞した現状を嘆いたところで、最後の村上モトクラシ大調査の回答にいくことにします。
  
 村上春樹さん(本人)からの出題です。村上作品を、『ノルウェイの森』の前と後に分けると、あなたはどちらが好きですか?

「究極の二択」というに相応しく、これはなかなか難しい質問です。悩んだ結果、柚木の回答は「『ノルウェイの森』前」。これが多数派の答えなので、春樹さんが内心ガクッときてないかちょっと心配です。「俺の二十年間は何だったんだ……」なんてね。
 でもこれはもちろん苦渋の選択というやつであって、個人的には『ノルウェイの森』前後で春樹さんの作品が決定的に変わったという印象は持っていない。わたしが春樹さんの作品を読み始めたのが『ノルウェイの森』刊行から数年経っていたこともあって、特にその前後を意識して読んだこともない。
 じゃあ何故「前」を選んだのか? と訊かれたら「単なるタイミングの問題」だとしか答えようがない。最近わたしは『風の歌を聴け』から始まる「僕と鼠」の三部作を読み返してみたところだった。それに今のわたしは、春樹さんが『風の歌を聴け』を書いたのとちょうど同じ歳なのだ。二十年以上前の、わたしと同じ歳の春樹さん。その存在を奇妙に身近なものとして感じながら「僕と鼠」の物語を読んだ。
 それはなかなか特別な経験だった。だからわたしの回答は「『ノルウェイの森』前」。またすぐに変わっちゃいそうですけど。

[ http://d.hatena.ne.jp/motokurashi/20050930村上晴樹さんメッセージ]