合コン体験 その3

 合コン当日の朝は、わたしと息子さんにとっては海へと出発する日だ。(現実には翌日の朝早くに出発するわけだけれど)。夏休みが始まってからいつも昼過ぎに起きていた息子さんは、この日は朝6時半にピカッと雷鳴のごとく目を覚ました。彼が家を出発するのは夕方のことだから、早起きする必要なんて何処にもない。いくら何でも張り切りすぎである。本番前に疲れ果ててなきゃいいけど、と少し心配になる。
 わたしは巨大なリュックを背負い、ビーチテントを肩にかけて朝の通勤列車に乗り込んだ。今から仕事をしに行く人の格好ではない。事務所の机の横に、でんと荷物を置く。「(柚木さんの)出ている時に、先生がじぃっと荷物を見ていたので、『海に行くんですって』って言っときましたよ」と美人事務員さんに言われる。せっかく先生に訊かれたら「家出してきたんですぅ。事務所に泊まるんです!」と答えようとネタを暖めていたのに、すべては台無しである。
 仕事中カバンに突っ込んでいた携帯には、息子さんからの着歴が山となっていた。小声で『アフロ軍曹』を歌い、リコーダーを吹くイタメッセージも残されている。出発時間や持って行くものなんかを確認したくて仕方がないのだ。裁判所へ行く途中で、わたしは息子に最後の打ち合わせ電話を入れた。入念な計画と準備。――どこか遠いところのお話みたいだ。
 でもわたしの予想通り、結局息子さんは約束より1本早い電車に乗ってやってきた。大きなブルーのリュックを背負って、駅まで柚木の足で15分の道のりをカタカタと走ったのだ。途中、大荷物を不審に思ったおじさんに「旅行の帰りか?」と声をかけられたらしい。
 柚木の同級生宅に着く頃には、彼の背中は汗でぐっしょりと濡れていた。わたしたちが合コンに行っている間、息子さんはひとりその家のおばちゃんとお留守番である。そろそろ出かけようと家を出たところで、チャリンコを飛ばして帰ってきてくれたおばちゃんに会う。「あんたらそんな色気のない格好で合コン行くんか?」と訊かれる。「別にええやん」と答える。同級生の方はいくら美肌の持ち主とはいえ、ろくに化粧もしていなかった。仕事に行ったそのままの格好である。だけどやる気が湧いてこないんだもの、どうしようもないのだ。
 しばらく立ち話をしていたせいで、待ち合わせ場所に着いたのはわたしたちが最後だった。地上へ上がるエスカレーターにのんびり乗っているところで、ふたりの携帯が同時に鳴り出す。オンタイムなのにさ、まったく。
 さて、ようやく合コン待ち合わせ場所に到着。お盆休みで遊び惚けているうちに、ずいぶん間があいちゃいました。何もないのに長い体験記だな、ほんと。