柚木、春樹さんに会いにいく その1

ゴールデンウィークの最終日、お休み終了カウントダウンの憂鬱を抱えつつ、柚木は春樹さんに会いにいきました。
オカダさんのブログで(正確にはコメント欄で)講演のことを知った瞬間、「あの! 日本国内ではほとんど公開の場に姿を現してくれない春樹さんが! しかもしかも京都で!(まさに定期圏内!)」という驚きに、心臓が高鳴りました。春樹さんに会うのに、これ以上の機会は考えられません。運命に違いないのです。不思議と抽選に外れるような気はあまりしませんでした。肌がピリピリするような興奮の波が去ると、……これって河合隼雄先生のためだからだよね、と素直に納得できました。春樹さんが人前に姿を見せるのに、これ以上しっくりくる理由はないな、と。
当日は午後1時過ぎに家を出て、2時過ぎには会場に到着しました。ゴールデンウィーク前半の寒さが嘘のようによく晴れて気持ちのいい日です。時計台前の楠が陽を受けて、若緑にぴかぴか輝いています。その周辺で報道陣らしき人たちが会場に集まってくる人たちを次々と呼び止めていました。時計台の中に入り、受付でチケットの半券をちぎって貰うと、一斉にカメラのフラッシュがたかれます。開場して間もないせいか、参加者ひとりひとりを撮影しているようでした。メディアの熱心な取材が辺りの空気を張りつめたものに変えて、非日常の世界に足を踏み入れた気がしました。前日の夜から、柚木は春樹さんと直接顔をあわせるわけでもないのに変に緊張していたのですが、それでかえってリラックスした気分になりました。
夜からのニュースで、日本での講演は実に18年ぶり、(公式発表はないので正しいのかは分からないけれど)1万通近い応募があったなどと目にして、その中の500人に選ばれたのは実はとてつもなくラッキーだったのだと知りました。席が後ろの方だし、メガネの度が合ってないからしっかり見えないよ、などと文句を垂れている場合じゃなかったのです。外れた父に「運が悪いなー」と思ったり、インタビューで「(当選したのは)今年の運を使い果たしたと思います」って答えてた女の人に、それはちょっと大げさでは、と思っていた自分がバカでした。飛行機や新幹線に乗って駆けつけた人もかなり多かったようです。定期券使ってふらふら参加している場合じゃないのです。トイレ休憩なしの2時間半と聞いて、ちょっと長い? 明日も仕事だし、トイレ大丈夫かなーと一瞬思ったことも内緒です。無知って最強に罪です。