ドラえもんの世界

 日本人なら老若男女問わず誰もが知ってる、お茶の間の国民的アイドル。「こんにちは、ぼくドラえもんです」って、大山のぶ代さんのあの独特のハスキーヴォイス、あなたも一度くらいは真似したことがありますよね? 最近、お馴染みの声優陣が総入れ替えした上、絵柄も少し変わった。これが新しい『ドラえもん』なんだ!とわたしのボディが納得するまでには、この先相当な時間が掛かりそうです。幼い頃から身体に染みついた感覚を塗り替えるまでには、並々ならぬ困難が待ち受けているのだ。すぐには太刀打ち出来ないくらいの。たとえ、それがどれ程些細なことであったとしても……。
 とかなんとか頭の隅でかんがえつつ、けっこう楽しくドラえもん観てます。映画版(だから声はまだ、お馴染みの大山のぶ代さんです)が主ですが。ジャイアンがやけにいいヤツになってるのもいいしね。大人でも十分楽しめます。(余談ですが、クレヨンしんちゃんの映画もいいですよ。バカバカしくて、お下品で、ちょっとホロリとしちゃいます)。
 ついこの間も、息子の借りてきた『のび太ドラビアンナイト』ってのを観たとこです。小学生の彼は、飽きもせず繰り返しドラえもん映画を借りてくる。そしてわたしは(大人になって)何時見ても「ドラえもんの世界ってのは恐ろしいよな……」と思う。子供向けアニメに、わたしはゾッとする。時折。本気で。背筋をあの世から伸びた氷の手に、そっと撫でられたみたいに  
 何がそんなに恐ろしいのか? 毎回ドラえもんが取り出す、22世紀の科学技術の結晶。あのドラえもん世界に不可欠な秘密道具。それがわたしには、ひどく気味悪く感じられる。
 ドラビアンナイトに出てきた『絵本入りこみぐつ』とゆう重要アイテム。これも、なかなかに恐ろしい道具だった。【このクツを履くと、好きな絵本の世界に入りこむ事が出来る】これだけ聞くと、なんだか楽しそうだと思うでしょう? わたしもそう思う。ぐりとぐらの世界に入って『ふんわりとした きいろい かすてら』を食べる、なんてのはちょっと想像しただけでも涎が出そうだ。【  でも、絵本の中の世界で片方でもクツを失ってしまったら、もう現実世界に戻ってくることは出来ません】
 そして、基本的には、そこには何の救済手段も用意されていないのです。
 クツを無くしたらそれでお終い。絵本の世界で一生を過ごす羽目になる。うっかりクツを無くしたら、自動的に22世紀のセキュリティ会社に通報、係員が駆けつけてきて助けてくれる  ってのは一切なしである。
「そりゃないよ」とわたしは思う。「子供の遊び道具のふりして、なんてリスキーな道具なんだ……」なんせ人生が掛かっている。どうしてこんなに危険な商品が、22世紀で堂々と販売されているのか? わたしには全く理解できない。現代から22世紀に至るまでの間に、何か安全性や企業責任に関しての人々の認識が、コペルニクス的に転回してしまったんだろうか? 1994年に制定された製造物責任法(PL法)は、ドラえもんの誕生した世界においては、苔のむした過去の遺物にすぎないのだ。22世紀では、誰もJR西日本が新型ATSの設置を怠ったくらいでその責任を厳しく追及したりはしない。それが夢の世界なのか? 「あんまり暮らしたくはないな」としみじみと思う。
 わたしは、息子の隣でそんなことを考えながらドラビアンナイトを観てました。同じものを観ていても、人の抱く感想は千差万別、ってことです。
 ドラえもんについては、また機会があったら書いてみたいと思います。とても奥深い世界だから。

映画ドラえもん のび太のドラビアンナイト [DVD]

映画ドラえもん のび太のドラビアンナイト [DVD]