息子と、二度目のドラビアンナイト

 学校から帰ってすぐに「ドラえもんのビデオ観ていい?」と息子が聞いた。今日は遊びに行かないのか、と思う。でも、ビデオ観てるんなら静かでいいや。「いいよ」とわたしは答える。ウィ〜ン、ガチャ。息子がビデオをセットしてソファーに座るのが見えた。
「ママも一緒に観ようよ」
「昨日、ママも観てたよ」わたしは乗り気じゃない。実際、昨日の夜11時過ぎまで夜更かしして、親子3人で観たばかりなのだ。同じ映画を直後に見返したくなるほど、わたしは熱心なドラえもんファンではない。離れて本でも読んでいたいな、と思った。
「ママと一緒に観たいの!」と彼は熱心に何度も誘った。そしてわたしの傍に来て「家族の中で俺の一番好きな人はママなんやで!」と言った。2回。繰り返して。彼はそれを強調したいみたいだった。
 家族の中で一番? とわたしは心の中で呟いた。息子が急に、ひどく不自然な流れでこう言ったのは、わたしを慰めたいと思ったからに違いなかった。それはとてもはっきりとしていた。ここしばらくの間、わたしは彼が生まれてから最も元気がなかったのだ。人生の相当に困難な時期に差し掛かったばかりだった。どうしても力が出なかった。(詳しくは、最初の日記を読んで下さい)。彼はいつもと変わらない風に見えたけど、実はかなり心配していたのだ。そうでなければ(買って欲しい物もないのに)彼がそんなことをゆうわけがない。絶対に。
 わたしは2歳の息子に「大きくなったらママと結婚しようね!」と言っては、何度も(何年間も)すげなく断られていた。実にあっさりと。「いやだ」と彼はいつもきっぱりと断った。とても慎重な性格なのだ。冗談でも結婚の約束なんて出来ない。その頃夢中で集めていたデジモンカードを山ほど買ってあげる!とゆっても答えは変わらなかった。「大きくなったらママと結婚する!」と息子にゆわれるのは、父親のそれと同じくらい大切な母親のロマンなのに。
 だから彼の「家族の中で一番好きな人はママ」とゆう言葉には、絶対的な重みがある。
 わたしはとても幸せな人間だと思う。世界で最も愛する者に、ひどく大切に思われているからだ。だからそのうち、うまく立ち上がることが出来るだろうと思う。時間は掛かるにしても。
 そして、二人で寝ころびながら2度目の『ドラビアンナイト』をみた。これはとても特別な映画になった。わたし個人にとって。