記号としての東京

 『ロスト・イン・トランスレーション』はアカデミーオリジナル脚本賞を受賞したり、他にも大小様々な賞をとった作品だからご覧になった方も多いかもしれない。監督のソフィア・コッポラフランシス・コッポラの令嬢であることや、彼女が「VOGUE」のカバーを飾ったこともあるほどの美貌の持ち主であることなんかも話題となった。
 この映画はサントリー『響』のCM撮影のため東京に来たハリウッドの中年スター(ビル・マーレイ)と、フォトグラファーの夫について来日していた若妻(スカーレット・ヨハンソン)とが同じホテルに滞在していたことから知り合い、異国にいる不安や孤独な気持ちをしだいに共有し合うようになる、というストーリー。この二人が禁断の愛に陥ってしまい愛憎入り混じった事件が次々と……なんていうようなことはない。昼ドラファンには少し物足りないかもしれないです。
 映画の中の時間は淡々と流れ、映像も派手なところはない。静かな映画、といった感じ。でも日本を一時的滞在者である外国人の視点から見るのは興味深かった。わたしがいつも楽しく見ている「マシューズ・ベスト・ヒット・ティビー」がひどく奇妙なものに感じられ、言葉の通じない国にいることの滑稽さや哀しみでなんとなく切なくなる。でも映画の舞台は東京である必然性はなかったのではないだろうか? アメリカと表面的には似通った生活を送っている国であり、言葉と習慣の異なる国でさえあれば――。映画の中の『東京』は象徴としての異国であり孤独の媒介としての役割を担っているに過ぎないのだ、おそらく。
 だけど実際のところ、天下のサントリーがハリウッドスターを使ったCM撮影の通訳に、あんな見事なジャパニーズイングリッシュを話し、素人の耳にもいい加減な(日本語と通訳された英語の話される時間の長さ自体が大きく異なる)通訳をする人間を雇ったりすることがあるんだろうか? それだけはちょっと真剣に疑問です。

ロスト・イン・トランスレーション [DVD]

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ロスト・イン・トランスレーション 公式ホームページ』 http://www.lit-movie.com/