楊貴妃の愛したお酒

 昨日久しぶりにワインを飲んだ。最後に飲んだのは多分お正月の話だ。母がムース作りに使うのだとか言って買ってきたのだけれど、それにはちょっと量が多すぎたのだ。とにかく余っちゃう分は飲んでしまおう、ということになる。
 それはキンモクセイの花を三年間漬け込んだ白ワインで、ふんわりと優雅な香りがする。初めはキンモクセイのリキュールみたいなものだと勝手に思い込んでいて、当然のように水で割って飲んだ。もちろん、水で割って飲んでも美味しい。オンザロックソーダ割りにしてもいいと、きちんとラベルに書かれている。甘みが強く、水で薄まっているせいもあってどんどん飲んでしまう。といってもストレートにすればグラスにたっぷり一杯分ぐらい、たいしたことはない。
 それでも身体が暖まって、思考もいつもに比べて鈍くなる。夏の日の夕暮れ前に、まだ温度のあるきれいな砂浜を裸足でのんびりと散歩しているみたいな気持ちがする。
 でもお陰でちっとも『海辺のカフカ』は読み進められなかった。たった二章読むと、瞼は自然とずり落ちてきた。今朝から続きを読み始めて、息子が学校から戻る前になんとか上巻だけは読み終える。「ジョニー・ウォーカー」がとにかく気味悪い。『ダレン・シャン』に出てくる「ミスター・タイニー」という男を思い出した。
 ブログを更新して、洗濯物を干し、掃除をする。それから下巻に取りかかる。わたしは本を読み始めると全く動かなくなってしまうので、とりあえず切りの良いところで用事を済ませる必要があるのだ。『海辺のカフカ』は昨日の白ワインと一緒に身体の中に残って、わたしの頭を重くする。いつもの村上春樹小説と同じに、これも「読んで気分爽快! とてもハッピー」という種類のお話じゃないみたいだ。でも、サスペンスを読んでるみたいにすごくドキドキする。