枯れ葉の指

 この前「緑の指」を持っている人に会った。柚木の高校時代からの友達のお母さんである。雪深い富山から京都の実家へと、まだハイハイも出来ない赤ん坊を連れて脱出してきた友達の家に行った時のことだ。ルノアールのカレンダーがよく似合う上品な家の中では、蘭の花が悠然と咲き誇っていた。三鉢も。もう何年も咲き続いているそうである。店から出荷された直後のように、それはぴかぴかと光っていた。
 柚木のバイト先の事務所にも、シンピジュームという蘭がある。事務所移転のお祝いにいただいたのである。うちに来てまだ2週間ほどしか経っていないというのに、もう死期がそう遠くはないことを感じさせる。非常に気の毒である。わたしは草花を愛しているが、残念なことに全く相手にされていない。完全な片思い、「枯れ葉の指」を持って生まれてきてしまったのだ。
 なんとかゴミと成り果てる前に、「緑の指」の持ち主に引き取ってもらいたい。柚木も出来るだけ頑張ってみるけれど、今まで成功した試しが無いのです、実際のところ……。