鼻だけセレブ

 コンバンバ、ウズギデズ。グシュグシュ、ビーン(鼻をかむ)。
 家族そろって悪質な風邪に魅入られて二週間。「こんなにひどい風邪を引いたのは何年ぶりだろうう?」と考えてみた。でも過去の風邪たちとはうまく比較できない。今までのわたしはといえば、ちょっとした風邪でも大袈裟に養生していたのだ。鼻水垂らし、咳をしながら電車に乗ったのなんて、記憶にないくらい遠い過去のお話。
 寝てればそれ程には思えなくても、鼻の詰まった状態で仕事をするのは結構辛いって事だ。三十目前にして、そんな社会常識に気付いてしまいました。ワタクシ。
 ふらふらとバイトに行って、十分おきに鼻をかんでいたら、柚木の繊細な鼻先は悲鳴を上げてしまった。赤くなって、ちびっと皮がめくれている。ティッシュって意外と凶器だ。花粉症の母に心からの同情を捧げつつ、昼休みにコンビニで「鼻セレブ」という贅沢な柔らかティッシュを買った。パッケージには、うちのみすぼらしい灰色ウサギとは生まれも育ちも違う、真っ白で可憐なウサギのお顔がデザインされている。
 普段、テレクラティッシュしかカバンに入っていない柚木は、とにかく気合いを入れて鼻をかむ。安物ティッシュの時よりも、鼻水をしっかり溜め、何度もティッシュを折りたたみ、いつもより余計にかむ。かむ。
――そんなわたしは貧乏性。「セレブ」の名が哀しいです。