何を山ほど借りたのか

 思えば柚木は小さい頃からはまり体質だった。と言っても、引き籠もり体質のわたしがはまるものといったら、小説か漫画のどちらかに決まっているのだ。たいして趣味を追究するタイプでもないので、「オタク」と名乗るのにはちょっと抵抗がある程度の、薄っぺらいはまりかたでしかないのだけれど。真の「オタク」のみが到達できる大海からみれば、わたしなんて雨上がりの水たまりでちゃぷちゃぷと遊んでいるみたいなものだ。
 それはともかく、柚木が明確に憶えている初めてのはまり体験は、児童書会の超名作(柚木評価)『ドリトル先生』シリーズだった。確か小学校の1年生くらいの時にはまり、以来お気に入りの巻は何十回と読み返した。誇張ではない、ほんとに。大学生の頃整理ついでに読んでみたら、はっきりとストーリー展開を憶えていたのだから。
 そんなわけであんまり迂闊にシリーズものに手を出すと、なかなか酷い目に合う。うまくやめ時がわからなくて、延々とそれを読み続けてしまうのだ。自制心の欠片もない。――さすがに小学生の時よりはずいぶんと大人になったから、呼ばれれば気が付くし、ご飯にだって遅れない。でも、それ以外はほとんど動かない。自分でも呆れてしまうくらい。
 はまり具合がひどいと、何度も何度も繰り返し読み返すことになるから、家族の受ける被害は甚大なものになる。シリーズものを手にする時は、実に注意深く時期を選ばなくてはならない。
 最近ひどくはまってしまったのが、小野不由美十二国記シリーズ。NHKアニメでその存在を知り、総集編(早わかり用)を見てはまると確信した。その魅力を強く語る知り合いもいて、出会いから一年以上手を出せなかった。 わたしには、あまりに危険すぎる。
 今はようやく全巻読み終わり、旦那さんに「俺の名前で借りるなよな」とぶちぶち文句を言われながらNHKアニメを借りている。「これがFFⅩⅡ並みの映像ならずっと楽しめるのになぁ、あるいは宮崎駿さん『ゲド戦記』の次に映画化してくれないかしらん……」、ぶつぶつ。
 でもそんな夢想虚しく、現実はいつだって厳しいものなのだ。「十二国記の新刊は何時でるのかな?」と楽しく検索したわたしは、ここ5年新刊が出ていないことを知った。――もちろん発刊の予定も未定。「不由美、お前もかっ!!」なのである。5年というのはちょっと微妙な期間だ。諦めるにはまだ早すぎるような気もするし、待ち続けるには不安が大きい。
 ――藤本ひとみコバルトシリーズと、田中芳樹銀河英雄伝説』外伝残2冊(それと『アルスラーン戦記』もだな)については、もうほとんど諦めたけど。さすがに10年以上も放置されれば、ね。(でもまだ、『ゲド戦記』のようなケースも考えられないこともないか……)。あぁ、未練。