夏休みの思い出 バスツアーいよいよ波瀾万丈2日目

 2日目の朝は、バスの出発時間を過ぎても夫婦で参加している客が乗り込んでこなかった。添乗員が慌てて走り、結局彼らは体調不良ということで途中合流することになる。まずは25分のロス。どうやら体調不良は寝坊の言い訳ではなかったみたいだ。
 軽井沢への道は、お盆休みの人が多いのか少し込んでいた。それほどひどい渋滞だとは感じなかったけれど、そもそもが遅れての出発なのだし、予定はびっしりなのだから大問題なのである。ぽっちゃり添乗員は、駐車場から徒歩5分の聖パウロ教会への道を間違えた。人は良さそうだけれど、使えない男なんである。
 昼食時に釜飯で有名な佐久のサービスエリアへ寄る。わたしたちが混み合った店内での食事を諦めてバスの中でパンを食べていると、時間が過ぎてもなかなか出発しない。またしてもお義母さんのお隣のお婆さんが戻っていないのだ。ぽっちゃり添乗員も探しに行ったようだけれど、うまく見つけることが出来ないらしい。結局出発時間を20分ほども過ぎた頃、お婆さんは釜飯を2つもぶら下げてひょこひょこ現れた。――ゴーイングマイウェイ。
 次に寄った何もない高原、清里でもお婆さんは最後の乗客となった。車内の雰囲気はどんどん悪くなっている。バスの中からお婆さんが駐車場の端からのんびり歩いてくるのを見て、「ほらー」と誰かが大声でお婆さんの行動中継を始めた。「すみませんってゆってみーや」と車内に響く声に、みんな静かに同意している。バスガイドさんやぽっちゃり添乗員はやりきれない気がしたはずだ。元来気の小さい柚木も、なんだか自分まで攻められている気がして(軽井沢ではオンタイムで最後の乗客だったから)ドキドキしてしまう。中継が続く中、お婆さんはバスを通り抜け、トイレへと向かった。そして「集合時間まちがえてたわ」との呟きと共に、結局10分遅れでバスに乗り込んだ。
 車内がざわついている。もう5時をまわっていた。「ハイジの村」の閉館時間に間に合わないんじゃないのー、子供らどうすんのーとまた誰かの声がする。いたたまれない。
 閉館時間は夏期なので9時半なんです、ご安心くださいとバスガイドさんが言い、集合時間に遅れないようにお願いしますと釘を刺されてバスを降りる。緊張のハイジ村体験。
 集合時間5分前にお義母さんから電話がかかってきた。問題のお婆さんの隣に座ってしまったお義母さんは、乗客のひとりに「お婆さんはどこにいはった?」と訊かれたらしい。時間に遅れないよう、お婆さんを捜して連れ戻しにいったのだ。でもそれってぽっちゃり添乗員さんの仕事ではないのか? ほんと、のんびりヨーゼフのチビぬいぐるみを買ってる場合ではないのだよ。
 バスはサービスエリアでの停車を最小限に抑えながら京都への道をひた走った。それでも、京都駅に着くのは(わたしたちは途中で降りたけど)ほとんどの公共交通機関がなくなる時間だ。日付変更線との戦い。――車で迎えに来てもらえない人は、タクシーでしか帰れない時間。安さが売りのバスツアーでは、おそらく最悪の結末だった。
 今回の旅行でアンケートを回収してたら、ぽっちゃりさんも少しはスリムになったかもしれない。苦情の電話まではかけようと思わなかったけれど、機会が与えられれば柚木だってリキを入れて毒の混じった感想を書いたはずなのだ。
 みなさんも団体行動は時間厳守いたしましょう。(ほんとあんなに言われるものだとは知らなかった)。でもね、旅自体はほんとに楽しかったのです。旅行の土産話も、こうしてたっぷり出来るしね。