お寿司は回る 中

柚木の期待混じりの予想を裏切って、息子はしっかり友達と約束をして帰ってきた。友達からは息子の携帯に確認メールまで送られてくる。まったく、信じられないような進歩じゃないですか?
「土曜日の10時45分に校門前で集合。11時に出発な」と息子は何度もわたしに報告して、「楽しみやなぁ」とにこにこしている。
「なんで出発の15分も前に集合するねん」と言ってみても虚しい。息子たちにすれば、集合とはそういうものなのだ。学校では出発時間と集合時間は決してイコールではない。
 土曜日の朝、息子はなかなか用意を始めないあたしの周りで「早く早く」と急かしてまわる。「お化粧なんてせんでいいし」と言われても、もちろんそういうわけにはいかない。
「まだ時間あるやろ?」
「でもみんな早く来るかもしれへんし」と息子はわたしの周りでぴょんぴょん跳びはね続ける。
「それに出発は11時なんやろ?」
 と言ってる時に、玄関の扉がどんどんどんと勢いよく叩かれた。時間はまだ10時40分。
「もうみんな揃ったってー」友達が家まで呼びに来たのだ。
「まだ45分になってへんやん」うちから待ち合わせの校門までは、ほんの数分の距離なのだ。
「みんな楽しみにしてんねんって」
 やれやれ、これじゃしっかり約束した意味ってあるんだろうか? でもまぁひとりの欠席者もなく、ちゃんとみんな集まった。男子が息子を含めて4人、女子が3人(柚木含む)。
 この日を心待ちにしていたのが息子だけじゃなかったのだってことは、子供たちに会ってすぐに分かった。女の子はふたりとも、ファッション雑誌の撮影会から抜け出してきたみたいに可愛い服を着ている。「すごいお洒落だね」って言ったら「こんなのいつもだよ」って答える。それでもきっと、この日のために一所懸命選んだんだろうなって思う。
 男の子は子猿みたいにじゃれあって、きゃっきゃと騒いでいる。途中であったクラスメイトに「これから『くら寿司』に行くねん」と自慢して歩く。
「女3人、男4人でなんか合コンみたいだね」って、女の子たちがこっそりわたしの耳に囁いた。すぐ後ろで、小猿どもはゲームの話で盛り上がっている。
「合コン?」つまらなかった合コンの思い出が柚木の頭の中を通り過ぎる。毎日学校で顔を合わせてる小猿相手に、合コンみたいだって? それにわたしまで数に入っているのか……。これくらいの年頃って、男と女じゃずいぶん感じが違うものだ。
「合コン」って言われてるよ、と無邪気に堤防に落ちていたロングステッキを振り回す小猿たちにそっと呟いてみる。

 あとちょっとだけつづく