一石三鳥のバスフィズをつくる

 牛乳風呂のその後の話を少し。
 カビキラーを使った後も、浴槽の底は相変わらずのマーブル模様でとても入る気になれない。あと一度はカビキラーとパイプクリーンをやらないといけないな……と考えるわたしの小心を嘲笑うかのように、母はさっさと湯船につかった。さすが牛乳風呂を実行する女なのだ。些細なことにはまるで拘らない。
 でもこのままでは、(意外ときれい好きな)わたしがお風呂に入れない。この寒い時期に湯船に浸かることが出来ないのは、美容の点で非常に問題がある。わたしの血行とリンパの流れはどうなってしまうのだろう? そうは思ってもかすかに鼻をつく青黴の臭いとマーブルカラーを前に、わたしの勇気はしゅんっと萎んでしまう。それに(母は少しも気にしていないけれど)この状態でお風呂に入るのは健康上問題なんじゃないかな。
 そんな時、クエン酸重曹で入浴剤を手作りできるという話を仕入れた。(女ばかりのランチタイムも、この年になると結構所帯染みた話題で盛り上がるのだ)。「クエン酸!!」ポット洗浄や水垢の掃除に最適、と年末に聞いたばかりだ。(実行はしなかったのだけれど)。重曹ならわたしも掃除用に買ったのがまだ残っている。これだね、とわたしは閃いた。
 お昼休みが終わると早速ネットで入浴剤の作り方を検索、帰りにドラッグストアでクエン酸の瓶を購入し、テレビを見ながら息子とふたりで作り始めた。重曹クエン酸を2:1の割合で投入し、さらなる効果を期待して伯方の塩とアロマオイルを適当に混入。ティースプーンで少量の水を垂らしてかき混ぜ、ラップで丸める。完成、とっても簡単である。
 あるだけの重曹を使い、玉子大の入浴剤が9個出来上がった。これで体はぽかぽか、肌はつやつや、尚且つ排水口もぴかぴかになるという、まさに柚木渾身の策。母には「ぽかぽか・つやつや」方面のみ強調しておく。
 その日の夜、素直な母は入浴剤を入れて湯船に浸かった。しゅわしゅわと泡がたち、なかなか良さそうな感じだった。でもアロマオイル虚しく、とてもひどい臭いがする。(これはクエン酸のせいだと勝手に思い込んでいたのだけれど、実はマジョーラムというアロマオイルが原因だと判明した。もちろん好みの問題です。実際、秘書さんたちは癒し系のいい香りだと言っていた)。
 この入浴剤がなくなる頃には、柚木も安心して湯船に浸かれるはずだ。にんまり笑っているわたしの横で、母がお湯が冷めないうちに息子に入らせようとし始める。息子に何をする! というセリフはぐっと飲み込み、母の、「早く入りなさい」と言う声に「もう遅いからお風呂はやめなさい」とこっそり妨害する。実際もう10時半だったから、母はあっさりと引き下がり、問題のお湯は静かに排水口へと吸い込まれていった。めでたしめでたし。
――でも今のところ、わたしはまだ湯船に浸かっていない。(きれい好きだから)。