あいさつしてます

 お祖父さんと幼稚園児の男の子とは、やっぱり毎朝すれ違っている。あたしを見付けると、男の子はほんの少し嬉しそうに口元を緩める。なんだか仕方がないので、「おはようございます」と挨拶することに決めた。耳にイヤフォンを突っ込んでいるせいで、お祖父さんが何を言っているのかはあまりよく聞こえない。でも今日は確かに男の子に向かって、「今日は走ってはったな」と喋りかけていた。ふん! 実は地下に潜ってからは結構時間に余裕があるんだけど(ほんとの直前でギリギリになるのが嫌なので早めに走っておく)、彼らはそれを知らないのだ。
 でもふたりは最近仲良く並んで歩いていることが多くて、その仲良しぶりにほんの少しでもわたしが貢献しているのだとしたらとても嬉しい。彼らと毎朝すれ違うのは面倒に思えたりもするけれど、だからまぁもういいのです。
 男の子が小学生になってこの朝のご挨拶が無くなるのは、それはそれで少し寂しい気もする。(それはこの4月のことかもしれない)。お祖父さんはもう送っていったりしないだろうし、日課のお散歩がなくなって急に老け込んだりはしないだろうか、と余計なことが気にかかる。――もちろん、それを確かめるすべは無いのだけれど。