受難の花粉症女学生

これも秘書さんから聞いた話。
 何年前のお話なのかは定かでないのだけれど、とにかく秘書さんが大学時代とっていた英米文学の講義でのお話。
 イギリスでは鼻をすするというのは、大変に不作法なことなのだそうだ。日本の感覚では逆なのだと思うけれど、人前でそっと小さく鼻をすするよりは大きな音を立てて鼻をかむ方がずっと失礼がないのだそうです。ビィーン、ブィーン。まさに所変われば。
 そして非常にやっかいなことに、この英米文学講義担当の教授さんは大のイギリスかぶれで、授業中このイギリス的礼儀作法を採用していたのだとか。講義中「鼻をすすった者」は、即刻退場の憂き目にあうことになる。だから静かな授業中に音を立てて鼻をかむ勇気がないものは、ひたすらティッシュで鼻を押さえ続けるしかない。――でもふつう、なかなかそんな勇気は持てないですよね? だってここは日本なんだもの。
 これはもう何年も前の話なので、今もこんな過酷な状況に追い込まれている学生さんがいるのかは分からない。でもこれからの花粉舞う季節に、必死で鼻を押さえる可愛い女学生さんを想像すると、気の毒だと思うよりちょっと可笑しい気持ちになる。まぁ今年は花粉の飛散量も少ないそうなので、何よりです。