野次馬になって写真を撮られる

最近、わたしの住む団地では放火事件が相次いでいる。自転車置き場が燃やされたり、1階のベランダにかけられていた政治ポスターが燃やされたり、月に一度は必ず何処かが燃やされる。今度は自治会で集めているペットボトルの集積場に火がつけられた。
夜の10時半頃、ラジオを聞きながら半分眠りかけていたわたしの耳にも、ジリジリと鳴り響く非常ベルが届いた。また子供がイタズラで鳴らしたのだろうかと呑気にベッドに横たわっていると、どうやら火事らしいと様子を見に行ってきた息子が報告する。ママも見に行こうよと手を引かれ廊下に出ると、パジャマ姿の男女が小声で囁きながら左下あたりを窺っている。向かいの団地にも見物に出た人の姿が見える。団地の壁に消防車の赤いライトがピカリピカリと反射して、何だか大事件の様相を呈している。
背が伸び、今や七分丈となったパジャマを着た息子に引かれ、しぶしぶ階段を降りた。夜の風は冷たい。鎮火した後に到着したらしい二台の消防車の周辺で、銀色の防具に身を包んだ隊員さんたちが懐中電灯を頼りに辺りを探っている。わたしは息子とふたりで並び、腕をさすりながらそれを眺めている。息子はもっと燃えればいいのに、と小学生らしい愚かなことを言って叱られる。一瞬、ピカッと閃光がが走った。あぁ、写真を撮られたのだろうと合点する。犯人がきちんとこの野次馬の中に混じっていればいいのにと思う。
これからの季節、火はますます恐ろしい。死人が出る前にきちんと犯人が捕まればいいのだけれど。