本厄ですので

touko_yuzu2008-04-11


 桜がこの世の春と咲き誇り、暖かな陽光に照らされたある麗らかな土曜日、わたしは観光客で賑わう華やかな京をそっと抜け出し、黄砂に霞む山を睨みながら厄除けに出かけた。前回と同じ滋賀の立木観音(安養寺)である。期待に反し山頂に至る700余段の長い階段沿いに桜はなく、お陰で人もそれほど多くない。果てなく続く長い階段を、激しく息を切らせながらも何とか登り切り、念を込めてお祈りをする。本厄の柚木はちょっと奮発して100円の蝋燭と10円の線香に灯をともした。「悪いことが起きませんように」「良いことばかりが起こりますように」とむんむん念を込める。具体的に悪い事態は予測されていないので、高いお札やお守りは購入しない。
 今回はお花見も兼ねてのお出掛けなので、すぐ近くの石山寺にも行ってみることにした。紫式部がここに籠もって源氏物語を生み出したという由緒正しきお寺である。京都の混雑を避けての滋賀とはいえ、さすがの土曜日に観光客がゼロとはいかず、駐車場待ちの車が一車線をずらりと占領している。あきらめてすぐ近くにある駐車・入場無料の『アクア琵琶』という謎の第三セクター(想像)に入ってコンビニのサンドイッチとおにぎりを食べ、たうたうと流れる瀬田川の川面を眺める。建てられて間もないらしい美しい館内には意外と人が多く、あまり面白みのない学習ゲームに興じたりしている。わたしたちは琵琶湖の洪水を如何にして回避してきたのかという努力と感動の歴史を興味深く学び、モノクロカラーの地味なお魚たちで目を楽しませた。外には雨体験コーナーがあった。息子に備え付けの雨カッパを着せ、透明ビニール傘を持たせて世界最大の雨(1時間600mm)を体験させる。スプリンクラーが雨を降らせ、雷鳴が轟く。カッパはマスコットキャラクターのビワコナマズ、『ビワズくん』と『アクアちゃん』をイメージして作られている。ちゃんとしっぽが生えていて、アクアちゃんにはピンクのリボンがついている。ベンチに座り、可愛らしいなまずのカッパを着てひとり雨に打たれる息子を眺める。世界最大の雨も雷の唸りも、風が吹いていなければ意外と恐ろしく感じられないというのは新たな発見であった。
 アクア琵琶を出て石山寺に入山したのは、勤勉な観光客が姿を消し始める午後3時半頃になってからだった。入り口付近で美しく人を誘った桜の姿は、境内にはあまり見当たらない。お花見的にはちょっと失敗である。ホームページには「花の寺として有名な」と書かれているが牡丹園などはまだ拡張工事中らしく、[花の寺としての体裁はこれから順次整えて行きますよ、だから今しばらくは辛抱してちょうだいね。堪忍ね]という非常に発展途上な印象である。それでも入山料500円の使い道を肌身で感じられるという意味ではとても好感が持てる。境内はそれほどの広さはないものの、700段のきつい階段を上り下りした足にはずいぶんこたえた。拝観時間終了の4時半ぎりぎりに本堂に入り、再びむんむんと念を込めて厄を払う。ここは一度限りの参拝でパチを当てたりはしないようなので、あずさんの分もどうぞよろしくと祈りを追加する。10円でどの程度のご加護をいただけるのは分からないけれど、油断するとがくがく震える足には古代石山詣での風格が漂っている。その辺りの苦労を顧慮に入れていただければ、それなりの期待は抱けるかもしれない。どうぞ良いことばかりが起こりますように!