カリン酒、梅酒、ヤマモモ酒

人事異動で4月に仕事内容が変わり、続けて6月に事務部再編成のためのお引越しがあり、ここ最近はなかなか定時に帰れない日が続いている。おばちゃんばかり6人の小部屋に押し込められ、気楽ではあるけ れど煮詰まってしまいそうな気鬱もある。前は自由気ままに仕事をして、掛の人間関係も良好で、とても楽しかったのだ。今も別に、大きな不満があるわけではないのだけれど。
時々、前の掛のおっちゃんが遊びに来てくれる。
「今から試験地にえぇもん拾いに行くぞ」
と仕事中に声をかけられ、徒歩3分の試験地にお邪魔した。試験地にはいろんな木や草が生えている。何 を「試験」しているのかは全く知らないけれど、とにかく緑が濃くて時々何かの実がなる。カレーを作るときに使うローリエも、ここで枝ごと切ってくれ る。
本日のえぇもんは、ヤマモモだった。 雨上がりの午後で、黒々とした蚊が飛んでいた。 誘ってくれたのとは違う作業着姿のおっちゃんが、ヤマモモの木の下に青いビニールシートを広げ、木をゆすってくれた。直径2cmほどの紅い実がばらばらと振り落ちる。なるべくきれいに赤く色づいた実を集める。スカート姿の柚木は蚊を恐れて早々に退散したのだけれど、後でちゃんとおこぼれをもらった。おうちに帰って、ヤマモモ酒にするのだ。
ヤマモモ酒は今、玄関にいる。朝に夕に眺めては、 上から順に赤色が濃くなるのを楽しんでいる。小さなヤマモモは阿寒湖のマリモのように静かに行儀良くお酒に浸かっている。初め底に沈んでいた紅色のマリモは、徐々にぷかりと上に浮かび上がり、集団でたゆたいながら、また徐々に下降し始めた。このヤマモモの上下運動には何か科学的理由があるのだろうけ れど、理数音痴の柚木には可愛いマリモの集団行動のようにしか見えない。ヤマモモ酒の完成は10月になってから。とても待ち遠しい。